「マクベス」より:きれいはきたない、きたないはきれい

 

マクベス (新潮文庫)

マクベス (新潮文庫)

 

 

今回はシェイクスピアです。

タイトルは、「マクベス」に登場する魔女の言葉です。

この言葉に、ドキッとしたのはいつだったか…。同名のポランスキーの映画を見た時か、祖父が持っていた坪内逍遥訳のあの青いハードカバーの全集を読んでいた時かははっきりしませんが、今でも自分の座右の銘になっています。

シェイクスピアは、いい意味で初めての読者を裏切ってくれます。ロミオとジュリエットなんて、ストーリーはだれでも知っているロマンス…。かと思いきや、実際に読んでみると、下ネタ満載で、突っ込みどころが多くて、カルチャーショックを与えてくれました。ハムレットの有名なセリフto be or not to be。思春期の青年が、生きるべきか死ぬべきか、と悩む話なんぞ、誰が読むか!というイメージを持っていたのが、実際読んでみると、波風立てずに今のままでいようか、それとも自分に正直に事を荒立てる道を選ぶか、それが問題だ、という意味だとわかると、うーむとなります。

シェイクスピアは、そういった物事の二面性を鮮明に描き出していきます。といっても、最近の奇をてらった小説のように、善人が実は悪人でした、逆に悪人と思われた人物が最後に善に目覚めて、などといった薄っぺらいものではありません。物事や人間というのは、正邪や聖俗、善悪両方あって当たり前、それが自然なんだというスタンスでいるような気がして、深いなあと思います。また、それぞれの作品について、いろいろな解釈ができることも魅力の一つです。先ほど、突っ込みどころ満載と書きましたが、リア王が最初のシーンで、「お父様ってすごーい!」といってほしいのに三女コーディーリアは、けんもほろろの言い方をして悲劇が始まります。でも…、あれじゃあ怒るわな。しかし、しかし、コーディーリアは言葉を選んだ末に、絞り出したセリフなのです。言葉では、真意を100%伝えることはできません。でも、その中途半端な言葉という手段でしか伝達できないからこそ、人間は常日頃のコミュニケーションを大切にしなければならないのです。ハムレットが、「言葉 言葉 言葉…」とおどけるように、自分自身に向けて言ったように。