山月記
中島敦の名作です。私が初めて読んだのは、高校の国語の教科書でした。
最初漢文調で読みにくいなと思っていましたが、途中からぐいぐい引き込まれまし
た。主人公の親友が人食い虎になってしまう物語です。若い頃は秀才でならしてい
た友は、プライドが高く人と交わらず、努力することを忘れ、とうとう発狂し遁走
してしまった。主人公が旅の途中で、偶然虎と化した友と出会い会話をする場面で
す。友は言います。
今までは、どうして虎などになったかと怪しんでいたのにこの間ひょいと気がついてみたら、どうして以前、人間だったのか考えていた。
「ジキル博士とハイド氏」を思い出させるような台詞です。セルフコントロールが
できない恐怖を表しています。そして、なぜそうなったのかを分析してこう言いま
す。
臆病な自尊心と尊大な羞恥心
もともとあった才能を磨くことをせずにいたのは、人と交わったり教えを請おうと
することに自尊心と羞恥心があってできなかった。あいつは俺よりも才能がないと
思っていた連中がどんどん出世していくのに、自分はずっと同じところにとどまっ
ている。それに耐えられなくなったときに、虎に変身してしまったというものだ。
この物語はとても教訓的で、当時高校生の私に衝撃を与えました。では、私は、虎
にならずにすんだかというと、ハイド氏になっていないかというと残念ながら、答
えはノーですね。人は弱いものです。プライドもあれば欲望もある。セルフコント
ロールできているつもりであって、実はそうではなかったことが後でわかるものです。
時折、この山月記を読み、自分がどこまで虎になっているか再確認するのです。自
分が人間であった記憶を失わないように。