酒井順子さんの「下に見る人」

今回は上記の本を読んだ感想です。酒井順子さんのベストセラーといえば、

「負け犬の遠吠え」です。ご本人は「独身生活が楽しいとか充実していると

か、どれほど語ったところで、世間様から見たら負け犬の遠吠えでしかないの

であるなあ」という実感を記したものだったそうですが、それが賛否両論を生

むことになりました。それが正しいとか正しくないとかではなく、あの時代の

その時の年齢の酒井さんが感じた率直さが受けたのだと思います。

 

私が酒井さんの書くエッセイがいいなあと思うのは、単に「あるある」もので

はなく、良い意味で自分を起点にして考え謙虚なスタンスで問題提起している

ところです。それは、私と価値観が似ているからかもしれません。今回のエッ

セイの一つの章「甘い誘惑」では、いじめ加害者のカミングアウトについて言

及していました。わたしもずっと、いくら世の中いじめがいけない、とか私も

実はいじめられてました、といっても変わらないだろうな、実は自分いじめし

てました、という人たちがどんどんカミングアウトしなければ、まあ、自覚が

ないからそれは無理だろうけど、と思っていたからです。つまりこの本は、い

じめを含め、人間関係における相対性を描いた本なのです。

ある章ではニックネームが話題になっていました。筆者が小学校時代クラス全

員に何でもいいから得意分野にちなんだ「ミス〇〇」の称号を与えようという

ことになったのだそうです。筆者は書きます。

発案した子は、今風に言うならば「ナンバーワンにならなくていい。それぞれみんなが、オンリーワンなんだよ」的な空気を、教室にもたらしたかったのだと思うのです。

その結果、想像通り〇〇をつけやすい子〇〇に言葉がなかなか入らない子に二

分されます。子どもの世界のちょっと残酷な面を表していました。ちょっと脱

線しますが、槇原敬之の「世界に一つだけの花」の歌詞は素晴らしいのに、な

ぜ意図的に二次使用される場になるとうさん臭くなるのでしょうね。一番じゃ

なきゃダメなんですか、二番じゃいけないんですか、の叫び声が聞こえてしま

います。

酒井さんの「下に見る人」は、読みやすいながら、他人ごとではなく自分事と

して振り返らせる何かがあります。例えるなら「ある、ある~」ではなく「だ

よね…」と思わせるような。

 

下に見る人 (角川文庫)

下に見る人 (角川文庫)