ハムレットの母

私がシェイクスピア好きなのは、母の影響かもしれません。

読書好きな母は、私が本を買うときには、お小遣いとは別にお金をくれまし

た。私が成長し、名作と呼ばれる小説等で母と議論をするようになりました。

そんなある日、議論の俎上にのったのはハムレットでした。

 

私は、ハムレットの母親ガートルードの言動が理解できない、といいました。

ハムレットの父親が、不審な死を遂げて月日もたたぬうちに、その弟クロ-

ディアスと結婚する。

苦悩するハムレットに対し、母は理解できないと悲しむ。

最後は、あっけなく毒杯を飲んで死んでしまう。なんとなく浅はかな母親とい

うイメージがあり、それを私の母親に話題にしました。

すると母親は、一言こう言ったのです。

「それは、すべて愛する息子ハムレットを守るためさ」

 

クローディアスと結婚したのは、彼がハムレットを亡き者にしようとする考え

を知っていたから。

クローディアスが自分にぞっこんなのを知っているから、女の武器でうまく新

しい夫を誘導していた。

最後に、知らずに毒杯を飲んでしまったのではなく、当然クロ-ディアスの計

画を知っており、ハムレットを守るために自ら毒杯をあおったのだ。子どもの

ためなら、母親はどんなことでもやるのよ。

 

返す言葉がありませんでした。

 

しかし、残念ながら、私の母の解釈は、どの解説にも書いてありませんでした。そういう解説がありそうですけれどもね。

結局、息子は母親の気持ちなど理解できないのですね。私もハムレットも。

 

余談ですが、私が幼い頃、タイタニック号の遭難の話を本で読んでいた時、

甘ったれの私はそばにいた母に聞きました。

「ねえ、お母さんと僕が船にいて、もし救命ボートにあと一人しか乗れないとしたら、どうする?」

当然、「おまえに譲るよ」を期待していた私でした。

しかし、内容は同じでも、答えが違いました。

「そうだねえ、その時は、私は海に飛び込むよ。」

子ども心に母親という存在の大きさ、恐ろしさに触れた最初でした。

 

シェイクスピアは、読み手の性別、年齢、人生経験、立場によって様々な解釈

ができるのが素晴らしいところです。

それだけ豊かなドラマが内包されているのです。

また、訳者によっても、面白さが再発見できる楽しみがありますね。

 

ハムレット (新潮文庫)

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