俵万智:かぜのてのひら

最近、俵万智さんの歌集を読んでいます。第一歌集の「サラダ記念日」が発行

されたのが、もう30年以上前とは、ちょっと信じられませんね。恋の歌で、

どきっとさせられたり、あるあるとニヤッとさせられたりと、どれも新鮮な切

り口で私たちを唸らせてくれました。

今、チョコレート語訳みだれ髪までの初期4冊をランダムに紐解いています

が、最初読んだときの新鮮な感覚が残っているのが驚きです。一見、自由に

作ってあるように見えて、ものの見方感じ方を、より適切な言葉を選んで当て

はめていくところは、まるで言葉のジグソーパズルのようです。

本当ならば縦書きで書きたいところですが、「かぜのてのひら」から2つ選ん

でみます。

 

はなび花火そこに光を見る人と闇を見る人いて並びおり

 

頬杖をついて鏡の壁の中左右さかさのビュッフェ見ている

 

俵さんの視点で面白いなあと思うのは、物事の二面性であったり対称性であっ

たりすることです。最初の歌では、作者は光と闇の両方を甘受していることが

わかります。それは、花火の場であるからこそ得られたもので、その場その場

の特異なシチュエーションの中での情景を敏感にとらえられる歌人の才覚で

しょう。二番目の歌にしても、左右逆さに見えるのは、鏡を通してであり、鏡

を凝視している作者の心象風景を想像してしまいます。いずれにしても、俵さ

んの歌を読んでいると、自分が側にいて、俵さんが詠む歌の世界に自然と入っ

ていき、いわゆる疑似体験できるスペースがあるところが魅力なのだと思いま

す。面白い小説は、ページを繰りながらどんどん引き込まれていきます。で

も、俵さんはそれを31文字の中で行ってしまいます。そう考えると、すごい

ことではありませんか。

改めて、日本の短歌や俳句の奥の深さをも感じます。

 

かぜのてのひら

かぜのてのひら